初めての大雪だった。雪が降る日はより暖かいというが本当にそのようだった。空気が冷たかったが耐えられないほどではなかったので、イルジュンは早朝から窓を開け話していた。世界が全部白く変わっていた。町の風景はイルジュンの心を躍らせた。
しばしば窓の枠に雪の結晶が落ちてきた。イルジュンは椅子を窓の方に持っていきそれを踏んで立ち上がった。そうして窓の外に頭を突き出して、舌をすっと出した。しかし考えたように簡単に食べることは出来なかった。こんなにたくさん降ってくるのに、なぜか舌に簡単に落ちてくる雪は一つもなかった。なので後にはかかとまであげて状態になりぎりぎり耐えながら立っていた。このようにしていたら一回くらいは舌の上に落ちてくるかもしれない。
“あんたは、そんな危険なことをして!”
いつ上がってきたのか、おばあちゃんがイルジュンの腕を掴んで引っ張り降ろした。そして窓を閉めた後、鎹までかけて鍵をかけた。窓の鎹は一度力を込めてかけると簡単には開けることができなかった。イルジュンは残念な気持ちに舌鼓を打ちおばあちゃんに続いて朝ご飯を食べるため下に降りた。
ふとウンシルも雪を食べようとしたのか気になった。イルジュンは今日ウンシルに会ったときに一度聞いてみようと考えた。
*
“雪を食べたことあるかい?”
“ううん?”
ウンシルは言った。まんじゅうが熱いのかふうふうと息を吐きながらウンシルは小さな口の中で熱い息をもくもくと出していた。
“僕は今日雪を食べてみたよ。”
イルジュンが興奮して言った。ウンシルが適当にうなずいた。ウンシルの関心はすべて、食べている肉まんじゅうにいっていた。イルジュンはしょげた気分になり靴の先で土遊びをするなどわけもなくしらばっくれていた。
“まんじゅうおいし…”
“雪って美味しいの?”
話題を振ろうと思っていたところだったのに、いきなりウンシルが最初に聞いてきた。そして道端にたくさん積もった雪をじっくりと見つめていた。除雪機で道路の隅に押しやられた雪だった。
“私も食べてみようかな?”
“ううん,まんじゅうがもっと美味しいよ。”
イルジュンが手のひらを振った。
“それは私もわかるよ。” ウンシルが笑いながら言った。 “だけど私も食べてみたいな。”
“だけどあのように積もってるやつはだめだよ。汚いから。”
“そうね。でもそれならどうしたらいいんだろう?”
ウンシルが残っていたまんじゅうを口に入れてもぐもぐさせていた。イルジュンとは違ってウンシルは一つ食べるだけでもかなりの時間がかかった。少しずつ嚙みちぎり、しっかりと長い間噛んで飲み込んだ。
“うん, そしたら僕の真似して。”
“うん。”
ウンシルは頷いた。自分に集中するウンシルの姿がイルジュンは本当に好きだった。
”一旦雪が降ったら空を見て、”
イルジュンは空を見上げるとウンシルも空を見上げた。眩しかった。
“舌を出して。”
“バカみたい。”
うんしるがくすくす笑いながらもイルジュンを真似て舌を突き出した。
“すごく笑えるね。”
そう?”
“うん。雪がふってないから。”
笑いをこらえられなかったウンシルがイルジュンを見て言った。イルジュンもやめてウンシルのように笑った。事実イルジュンも今までたった一度もこの姿が笑えると考えたことがなかった。ただただ降ってくる雪をたべるためならしなければならないと考えていただけだ。しかし、ウンシルが笑えると言ったとたん本当に笑えるものになってしまったのがイルジュンにとっては不思議だった。
そんな考えに浸りイルジュンは少しの間我を忘れ紙袋からまんじゅうを出すウンシルを見ていた。その姿はまるでスローモーションのようにゆっくりと流れていった。ウンシルはその視線が気になり意識しないようにしようとすぐにまんじゅうを一口噛みちぎった。ウンシルの両頬はほんのりほてっていた。
その時イルジュンはウンシルの姿の後ろにぼんやりとしたなにかの被写体を一瞬鮮明にとらえた。イルジュンは目を大きくした。明らかにスンジェだった。少し遠いところの路地裏に隠れて見ていたがすぐに気づくことができた。イルジュンと目があったスンジェは呼ぶ隙も与えず、すぐに振り返り逃げるように走っていった。その瞬間イルジュンはウンシルのことを完全に忘れて自分でも知らぬうちに走りだした。
イルジュンの走りがスンジェよりもはるかに速いので、どれだけ一生懸命逃げたとしてもすぐに追いつかれつかまってしまうしかなかった。イルジュンがスンジェの服をぎゅっとつかんだ。何か言葉をかけたかったがスンジェが頭をゆっくり伏せたためすぐにいう言葉が出てこなかった。
“ちょっとだけ…”
イルジュンはぎゅっと握りしめていたスンジェの服の裾を離した。スンジェが頭をあげやっとイルジュンを見た。イルジュンは驚いた。スンジェの目に涙が溜まっていたからだ。
“な、なんで泣くんだよ!”
イルジュンはどうしていいか分からず聞いた。スンジェは口をぐっと閉じて頭だけ振った。
“もう僕とは遊ばないの?”
イルジュンがもう一度聞いた。つられて涙が浮かんできた。
‘僕まで泣いたらスンジェは何も言わずまた逃げるんだろうな。’
イルジュンはスンジェの前で泣かないよう努力した。スンジェは臆病者だった。また怯えることがあるのだということ推測するしかなかった。イルジュンはスンジェが口を開けるまで待った。
“ごめん。”
いくらかの時間がたち、スンジェはやっと一言話した。
“うん?大丈夫だよ。”
イルジュンが気を付けて答えた。内心驚いたまま。また何に対して謝ったのか全く分からないまま。
“…だけど何がごめんなの?
スンジェが言った。
“なんとなく …一緒になくて遊ばなくてごめん。”
“それなら一緒に遊ぼう。”
“それで、”
イルジュンは何だとしても大丈夫だったが、スンジェはまだ謝りたいこことがあるようだった。
“そして?”
“嘘をついていてごめん。”
その言葉を吐いて、スンジェは結局涙を流した。
‘いつ嘘をついたんだい?’
悲しく泣くスンジェを置いて少し悩んだ。
“嘘?”
“僕は本当はここに住んでないんだ
スンジェが言葉を付け加えた。
“あ…!”
そのときになってようやく思い出すことができた。水をかぶったまま自身を見つめていたスンジェの表情を。それは水をかぶり驚いて浮かべえた表情ではなかった。それよりもいきなりドゥリュ公園の商店の裏道に現れたイルジュンを見て浮かべた、当惑した表情に近かった。
“それがなんだよ。”
“その …僕は再開発する地域に住んでいるから…”
“再開発する地域?”
“う、うん? それが…”
“再開発したらどのようになるの?”
“それは僕も分からない、だけど…悪いことだと思う。”
スンジェの声が少しずつこもっていった。休む間もないイルジュンの質問に混乱しているようだった。イルジュンまたは一度も見たことがなかったスンジェの姿に少し驚いた。イルジュンは幕にかかっていた文字のことを思い出した。しかしいつもそうだったように、再開発だったって何だって別に関係のない問題だった。しかしスンジェにとってはそうではないようだった。
“おまえは悪くないから大丈夫さ!”
イルジュンがしゃがみ込みスンジェを見上げ言った。
“本当に?”
スンジェが聞いた。
“本当だよ! だから…
イルジュンは少し言葉を選んだ。
“僕たちは友達だよ。”
イルジュンがスンジェの手を掴んだ。ぎゅっとつかんだ手の上に白い雪の結晶が落ちてきた。イルジュンの頬にも、スンジェの靴にも、あちこちに雪が降ってきた。
“雪だ …”
スンジェがぶつぶつと言った。その時イルジュンははっと我に返り、何かを忘れていたことに気づいた。
“ウンシル!”
イルジュンはスンジェの手を掴み市場の方に走り始めた。午後なので人はより多くなっている状態でその中でウンシルを探すのは大変だった。イルジュンは四方をきょろきょろ見回した。その時入り口の近くの道端にしゃがみ込むウンシルを見つけた。
“ウンシル!”
イルジュンは叫んだ。ウンシルが振り向いて口を尖らせた。
“私だけおいてどこに行くのよ?”
“ごめん …”
ウンシルは依然としてひねくれた表情で、その前でイルジュンはどのようにしていいか分からなかった。しかしどこか遠くに行かずここにいてくれて不幸中の幸いだった。もしウンシルがいなくなってしまっていたらそれよりもひんやりする状況はないはずだ。
“わぁ,よく作ったね。”
スンジェが言った。ウンシルがしゃがんでいた場所をちらっと見て出た言葉だった。ウンシルが待ってましたというようにそこをどいた。
“わぁ,雪だるまじゃないか?それも2つも?”
“うん。さっき私が作ったんだよ。”
人の足であまり踏まれていない道端に雪だるまが二つ立っていた。隅にたくさん積もっていた雪を固めて作ったようだ。
“これはイルジュンの雪だるまで,これはウンシルの雪だるまだよ。私はボタンもついてるの。なぜなら私はボタンがついてる服を着てるけど、イルジュンの服にはボタンがないからだよ。”
ウンシルがその間しきりに興奮してた。スンジェがうらやましいという目でイルジュンを見つめていた。突然イルジュンの顔が赤く火照っていた。並んで立っているウンシルの雪だるまとイルジュンの雪だるまなんて!
“スンジェの雪だるまも作ってあげよう。”
イルジュンが言った。そしてゆっくりしゃがんで雪をたくさんかき集めた。冷たい風にも火照った顔は冷まされることもなく心臓はバクバクしていた。それを知っているのか知らないのか、ウンシルとスンジェとイルジュンが横に並んでしゃがみ雪を集めた。大雪は賑わう市場をはじめとして町のどこもかしこもこんもりと積もりはじめた。
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