運動場にはイルジュンの同い年くらいの子供たちがうようよしていた。運動場の端の貴賓席には両親たちが集まって立っていた。何人かの子供たちはお母さんに抱かれていてその中には泣いている子もいた。友達と集まっておしゃべりしている子たちもいた。ある男の子たちの群れが鞄を振り回しながら運動場を走りまわる姿をイルジュンは見た。ふと寂しさがこみ上げた。スンジェだけでもいてくれたらまだましだったのに。 一人でいる子たちも明らかにいたが、イルジュンのように自分がいるところを探し出せずにいる子供たちはいないように見えた。思ったよりも複雑な風景委にイルジュンは休む間もなく周囲をきょろきょろ見回した。
“まもなく,10時30分から入学式がはじまります。”
拡声器から案内の放送が流れてきた。運動場に出ていた人たちが各自奔走しながら動いていた。
“1組, 1組はここに集まってください!”
“5組の子たち、ここに2列で並んでください!”
表札を守って立っていた先生たちがもう一度組の名前を叫び、どこに入っていいか分からない子供たちを呼び集めた。色とりどりの服を着た子供たちが少しずつ隊列を作り列に並んだ。両親に抱かれ離れなさそうに見えた子供たちも凛々しく自分の場所に行った。
明らかに期待に胸膨らませた力強い歩みで家を出たのに、いざ学校に到着してみるとはるかに小さくなった気分だった。ウンシルを探すため努力したがどこにも見えなかった。この多くの人たちの中でウンシルをどう探したらいいのだろうか。イルジュンはくねくねと結んだ赤いリボンをいじりまわした。泣いてしまいそうな気がした。
“あなたなんでここにいるの?”
すぐ後ろで聞こえるがっしりした声にイルジュンは驚き後ろを振り返った。ぼーっとして声の主を見上げた。ウンシルのお兄さんだった。ひげをそりそれなりに綺麗な格好をしていたからなのか前に会ったときとはまったく違う感じだった。イルジュンは答えることができず泣きそうになり結局涙がでた。.
“なんで、なんで泣くの”
戸惑っているのか,彼がすぐに姿勢を低くしイルジュンの涙を拭ってくれた。そして頭をなでながらなだめた。
“泣かないで,君は何組だい?”
“はい…?”
予想していなかった質問だった。イルジュンは自分が何組なのか一度も考えたことがなかった。ただ先生たちが持っている表札と彼の顔を順番に見つめるだけで、何の言葉も発することができなかった。
“何組なんだい?僕が連れて行ってあげるよ。”
“ぼくはただ …ウンシルを探さないといけないんだけど …”
イルジュンがめそめそしながら語尾を濁らせた。
“ああ, うんしると同じ組なのか? すぐに言ったらいいのに。”
イルジュンはぐずぐずしながらうなずいた。彼がイルジュンの手を掴み少しきょろきょろ見まわして子供たちが列に並んでいるところにつかつかと歩いて行った。イルジュンは涙をぬぐいどこに行くのかも分からず連れていかれた。
“お兄ちゃん, どうしたの?”
ウンシルだった。ウンシルのお兄ちゃんがイルジュンをウンシルの横に並ばせた。
“同じ組だっていうからさ。早くこの子の手を掴んであげて。”
そのように言って彼は保護者席の方に行った。
“イルジュンなの?”
ウンシルがイルジュンを呼んだ。泣いたことがばれると思ってイルジュンは頭をちゃんと上げることができなかった。ウンシルがイルジュンの手を掴んでくれた。イルジュンもウンシルの手をぎゅっと握った。
ウンシルは3組だった。3組の先生は若い女性の先生だった。イルジュンはぎゅっと握ったウンシルの手を離さなかった。ウンシルと入学式を共にできるということが夢のようだった。ウンシルが頭をかがめしばしばイルジュンの顔を見ようとした。イルジュンは逃げようとしたけど結局目が合ってしまった。ふたりはにこりと笑った。笑顔が消えなかった。
イルジュンは先生の指示に従って‘前習い’と叫び前に手をすっとさし出して列に合わせて立った。
‘ただこうやって学校に行けばいいのに,おばあちゃんはこれの何が難しいなんて …’
イルジュンは考えた。そして内心いい気になっていた。ついさっきまでの不安は消え、期待しか残らなかった。担任の先生はとても忙しそうに見えた。泣く子供たちをなだめ、こそこそと列から離れようとする子供たちを元の場所に立たせ、あちこち走り回り、何度も数を数えながらも子供たちと目があえば大変だということを隠し笑顔を浮かべて見せた。
先生が子供たちの人数を数え始めた。10分後入学式が始まるという放送が流れてきた。先生の歩みは忙しくなった。彼女は戸惑っている様子を隠すことができなかった。先生は子供たちの数を2,3回数えそれでもどこかが変だと思い横の組の先生を呼んだ。
二人の間で何度か耳打ちが行ったり来たりしたあと、元の場所に戻ってきた先生が大きい声で3組の子供たちをよび注意を集めた。
“さあ、集中! 先生が名前を読んだら大きく答えながら手を挙げるんですよ。わかりましたね?”
“はーい!”
3組の子供たちが一斉に答えた。イルジュンもその中に混じり力強く返事した。先生が子供たちにざっと目を通し名前の順に呼名し始めた。
“コヨンジュン。”
“はい!”
“キムイェウン.”
“はい。”
列の前の方から返事が聞こえてきた。
“パクウンシル。”
ウンシルも先生が呼名するなり力強く答えた。イルジュンは自分の名前が呼ばれるのを待ち先生に集中した。しかし先生は名前を最後まで呼ばなかった。イルジュンは運動靴の先で何の関係もない運動場の土をばんばんと蹴った。
“僕のことをうっかり忘れて呼ばなかったみたい!”
ウンシルがにこりと笑いイルジュンをポンと叩いた。イルジュンも一緒に笑いもしたが心が楽ではなかった。そのことを言うか言うまいかイルジュンは悩んだ。
“なんで一人多いようにみえるのかな?”
先生が言った。
“今自分の名前を呼ばれていない人は手を挙げてみてください。”
イルジュンは少し悩んだか手をさっと挙げた。先生が頭をひねり名簿をもう一度確認してからイルジュンに近づいてきた。
“そう、名前はなんていうの?”
先生が聞いた。優しい声に、イルジュンは少しだけ安心した。
“僕は,キムイルジュンです …”
イルジュンがこっそりとした声でようやく答えた。周囲の視線がすべてイルジュンに向かっているのを感じた。
“キムイルジュン… キムイルジュン…”
先生がイルジュンの名前を繰り返し、名簿をざっと見ていった。それから多少かたくなな表情でイルジュンを見つめた。イルジュンは先生としっかり目を合わせることができなかった。
“イルジュン、少し先生についてきて。”
イルジュンは先生の手を掴み運動場の前の隅に行った。そしてひざまずきイルジュンと目を合わせた。
“イルジュン3組であってるの? 3組の名簿にはイルジュンの名前がないんだけど。”
“僕は…”
“かばんはどこにあるの。しょって来なかったの?”
“はい? はい…”
“そう、大丈夫よ。それならイルジュンが何組なのか先生に教えてくれる?”
イルジュンは答えることができなかった。涙が浮かんできて目の前がかすんだ。先生は3組の子供たちが集まっている方を一度、時計を一度見てため息をついた。
“もしかして違う組に間違ってきたんじゃない”
先生が詰め寄るように聞いた。イルジュンはどうしていいか分からなかった。
“ただ, 自分も入学しようと …”
“なんて?”
“僕も入学するんです。僕も学校に行きたいです。”
イルジュンは結局涙があふれた。今日だけで何度泣いたことだろう、恥ずかしかった。もしかしてウンシルが見てるかもしれないと思いよりそう感じた。
“ちょっと待って。イルジュン、泣かないで。”
“はい?”
”君は何歳なの?”
先生が冷静に聞いてきた。イルジュンは一瞬頭を回らせた。明らかにイルジュンは昨年7歳であった。それは間違いなく事実だった。同じ7歳のスンジェと友達になりながら仲良くしていたから。しかし今年も7歳だと言った。それは理解ができていなかったけどどうしても8歳だと嘘をつくことはできなかった。
瞬間おばあちゃんの言葉が頭の中を通り抜けた。陽暦とか、陰暦とか、イルジュンとしては理解できない難しい言葉たち。
“8歳です。”
“そう?”
“はい。でも陰暦で …”
そこから立とうとしていた先生が止まってイルジュンを見つめた。
“陰暦で?”
先生が聞き返した。しかし今回はイルジュンの返答を待たなかった。先生は名簿をいくつかめくってみた。そして頭を横に振った。
“君はここにきてはいけないよ。早く家に帰りなさい。”
より断固とした言葉遣いだった。そしてもう一度3組の生徒たちの方へ帰っていった。もう入学式が始まるようだった。イルジュンは集まって立っている子供たちをずっと見まわした。そこにはウンシルが見えなかった。しかし探そうと努力しなかった。あの数多い子供たちの中のどこかにいるんだろう。イルジュンを探しているのだろうか?頬をこすり乾いていく涙の跡を消した。どれだけ考えてもウンシルがイルジュンを探しているようには見えなかった。
イルジュンは赤いリボンをほどき地面に落とした。名札はピンをはずしポケットにくちゃくちゃに入れた。そうして後ろを振り替えず校門を走り出た。冷たい風が凍った頬に痛く突き刺さった。
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